パソコン向け電子書籍

日本経済新聞が 5/17 に「ソニー、国内のパソコン向けパソコン向け電子書籍配信から撤退」と報じています。

SONY LIBRIe (リブリエ) や、Panasonicシグマブック (ワーズギア) といった電子ブック専用リーダーは、なかなか市場が立ち上がらず、キャズムを越えられないでいます。

インプレス R&D の 2007/11/16 の発表では、2006 年度末で電子書籍の市場規模は 182 億円、そのうち 62% の 112 億円が携帯電話向け。そのうち、電子コミック全体で 106 億円、携帯電話向け電子コミックが 82億円 とのこと。携帯電話向けに集中するというのは頷けます。個人的にも、携帯電話で "BookSurfing" を、PDA で "XMDF Viewer" を使う機会が増えています。

電子書籍化することで、従来の紙の書籍パッケージが抱えている経済的な理由による問題の幾つかが解決されるのですが、読者は安い紙を消費する文化に慣れていますので、読者メリットが上手に説明できないと難しいのだと考えます。

中期的には、著者がネット上に出版して、電子パッケージという形で収益を上げるモデルが作れますので、著者側のメリットと作りやすさというのも大切でしょう。現時点では、著者がネット上に出版しても、そのコンテンツそのものでの収益を上げることは難しく、制約の多い紙による収益に頼ることになり、版元との力関係が成り立っています。

パソコン向けのコンテンツの扱い方と、携帯電話向けのコンテンツの扱い方とで、決定的な違いが一つあります。パソコン向けでは、Permalink で表せるマイクロコンテンツが流通しますが、携帯電話向けではパッケージコンテンツが流通します。

パソコンでは、出版社や新聞社が考えるパッケージとは無関係に、検索エンジンソーシャルブックマーク、ブログ記事などが指し示したコンテンツ (マイクロコンテンツ) にいきなり到達します。新聞、雑誌というパッケージの意味は薄れています。これがネット上で流通しやすい形なのですが、出版社は雑誌のメタファーのまま、Flash でネット上に雑誌を作ってしまい、トップページにしかリンクできないという誤りを犯してしまっています (大手ほどその傾向は強いようです。)。それぞれのページのそれぞれの記事見出しやコマ単位にリンクできるだけで、ブログで話題として扱え、ソーシャルブックマークされ、そこに新しいビジネスモデルも見えてくるというものです (今のウェブ雑誌のやり方は読者の入り口を狭めてしまっている。)。同じ記事の URI がコロコロ変わる新聞もリンクが貼れず、話題にしにくくなっています。

PDF はこの点についてよく分かっており、PDF ドキュメントの特定のページへの URI を作ることが出来るようになっています (hoge.pdf#page=<ページ番号> というパターンと、任意の場所に名前を付けてリンクする方法 hoge.pdf#mylink があります。)。

携帯電話では、出版社の考えるパッケージモデルがまだ成り立っており、特にコミックはパッケージ性が高いですので、従来の流通の制約 (書店の陳列可能な物量の制約。嗜好性の強い作品の入手困難。絶版による入手不可能。) を超えて伸びているのでしょう。何より、思い立ったらその場で買えるのが良いです。よく見かける1話無料という立ち読みマーケティングも、電子書籍だからこそできる方法ですね。

携帯電話は単体でコンテンツのダウンロード、決済、持ち運び、閲覧が出来るため、パソコンとリンクして専用リーダーに流し込むというモデルより手軽です (一手間少ないだけでずいぶん違います。)。紙の携帯性と閲覧可能性 (紙は直接閲覧できる) に近いです。そこで気になるのが、AmazonKindle です。単体でコンテンツのダウンロード、持ち運び、閲覧ができます。日本での展開 (ハードの発売と通信事業者をどうするか) はまだ分かりませんが、新聞も紙より安く定期購読できると、個人的にはアリだと思います。

森田