シリコンバレーの現状を知らない人々

今回サンフランシスコで開催されているSupernovaに参加して多くのスタートアップ企業を知ることができたし、起業家と知り合うこともできた。ここ米国でのスタートアップの雰囲気はとても明るい。ベンチャーキャピタリストも大きな期待をしていることだろう。

ところで2001年にネットバブルが弾けてから現在のウェブのスタートアップの状況がどうなっているか知らない人が多いに驚く。とくに日本のベンチャーキャピタルやIT業界のトップ、エコノミストにおいてさえ、そんな状況は初めて聞くといった反応だ。もうずっと前にからそうなっているのにこの反応には少々驚きを隠せない。

何かというと、今シリコンバレーのスタートアップでIPOを目指して会社を設立するなんていうことはほとんどあり得ない。ベンチャーキャピタルもそんなものは期待していない。ほとんどのスタートアップは手っ取り早くGoogleMicrosoftに売ってしまうのだ。ベンチャーキャピタルがスタートアップに投資するのは彼らにいかに高く売ることが先決で、万一にもNASDAQIPOしようなんて考えてもいない。考えてみてもわかるが、シードの段階で5億円ほど投資して少なくてもその10倍から100倍で売却できてしまうのだ。しかも1、2年で。こんなパフォーマンスの高いファイナンスが他にあるだろうか。しかもスタートアップの起業家たちは経営の専門知識もなければ経験もないし、IPOに興味はなくあるのはとにかく楽しいこと、誰もやっていないこと、業界で名前を売ることなのだ。

ところが日本の多くのベンチャーキャピタルは未だにスタートアップに夢のようなIPOを期待しているし、創業者に会社の経営を無理強いし、そのせいで結局スタートアップは行き詰まる。さらに保守的でほとんどスタートアップには投資しない代わりにIPO直前のベンチャーに投資してパフォーマンスはせいぜいよくて2倍、最悪の場合は公募割れしてほとんどリターンがない状態になる。そんなベンチャーIPOさせるから、彼らは株式資本主義市場で生き延びる術を知らず、そんな企業に投資させられる個人投資家がいつも犠牲になるのだ。いい意味で米国の個人投資家はネットバブルで虚業ベンチャーで痛い目を見たため、今そんなベンチャーにだまされはしない。だから米国のベンチャーはおのずとIPOもしないしできない。日本では逆でそこから何も学ばなくライブドアショック後はますます保守的になってしまった。

ここにきてベンチャー投資格差が大きく広がっており、シリコンバレーベンチャー投資のあり方をもう一度学び直した方がいいのではないかとさえ思ってしまう。一般投資家に関して言えば米国ではエンジェルが最初の資金を出すことが多く、売却に至ればそれこそ100倍のリターンもそれほどリスクの高いものではなくなる。日本では当然エンジェルのような未公開スタートアップ企業に投資するチャンスなどは皆無に近い。

このページを見てほしい。
5月に売却されたスタートアップおよびベンチャーのリストだ。

5月だけで20社以上売却されており、金額で最大なのはComcastが買収したPlaxoの150M(約180億円)だ。
マザーズジャスダックにこの規模のIPOがあったら狂乱するだろう。シリコンバレーではだれも証券取引所IPOなどしたくない理由がお分かりだろうか。

今、スタートアップは小さく始めて短期間でユーザを囲い込み、目にも止まらぬ早さで開発と機能追加を進め、さっと売ってしまうのが主流である。

その中で1000社に1社くらいが生き残り次のステージ(資金調達ラウンド)に進むことができる。最近だとLinkedInがそうだし、少し前だとFacebookがそれに当たる。シリコンバレーではプチ成功はしやすくなりビッグサクセスは狭き門になりつつあるのは常識である。

日本は1990年代ソフトバンクによってベンチャーの資金調達の幅が広がり、北尾社長のようなベンチャーキャピタリストによって大規模なベンチャー投資が可能になったが、2001年から今日までこの新しいスタイルのベンチャー投資とエグジットモデルを日本で実行している、できるベンチャーキャピタルはいないようだ。今強く思うのは日本にはとくに携帯電話市場においてベンチャー企業に一日の長があり、米国のくだらないベンチャーより遥かに質の高い開発ができるものがある。日本でもこうした新しいスタイルの投資活動を支援できる仕組みを提供できないだろうかと強く思うのである。そしてもっと個人投資家にもリスクを承知の上、未公開スタートアップへの夢(ある意味バクチ)のある投資ができる道筋を開きたいものだと思った。

SBI Robo 渡部薫