田坂広志 「風の便り」 ふたたび  第70便 山を越える修行僧

山を越える修行僧



仏道の修行をする師と弟子が、
二人で旅をしていました。

その旅の途上で、川に差し掛かったところ、
若い女性が、川の前で立ち往生をしていました。
着物の裾をあげ、歩いて川を渡ろうとしたのですが、
流れが急で、渡れなかったのです。

それを見た弟子は、
若い女性に心を惑わされてはならぬと
一人で川を渡ろうとしましたが、
師は、黙って歩み寄ると、
その肌も露な女性を肩に担ぎ、
川を渡しました。

女性の礼の言葉を背に、
二人の修行僧は、
その先にある山道を登り始めました。

その道を登り終え、坂道を下り、
その山を越えたところで、
思い余った弟子が、耐え切れず、
師に言いました。

あれは、許されぬことではないでしょうか。
若い女性を肩に担ぐなど、
修行の身で、
してはならぬことではないでしょうか。


それを聞いて、
師は、微笑みながら答えました。


おや、お前は、
あの山を越えても、まだ、
あの女性を担いでいたか。



我々の心は、
いくつの山を越えれば、
担いでいるものに、気がつくのでしょうか。



2003年2月27日
田坂広志





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田坂広志 「新しい風」 英語新著 『To the Summit』
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田坂です。

2005年に上梓した著書、
『未来を拓く君たちへ』の英語版が
KUMON Publishingより出版されます。

タイトルは、

『To the Summit』

サブタイトルは、

『Why Should You Embrace an Ideal in Your Hearts?』

です。

この英語新著は、米国、カナダ、英国を始めとして、
アジアも含む世界の英語圏で発売されます。

この本は、人種、国籍、宗教を超え
世界の未来を切り拓くすべての若者たちに対して
「なぜ、我々は志を抱いて生きるのか?」
という問いを投げかけたメッセージです。

地球温暖化、環境破壊、テロリズム、紛争と戦争、
経済的停滞、政治的混乱、文化的混迷といった
様々な困難が、若い世代の未来に待ち受けています。

それらの困難を乗り越え、
素晴らしい未来を切り拓いて欲しい。

その願いと祈りを込め、上梓する著作です。

この『To the Summit』は、
まず米国において11月に出版され、
その後、順次、各国で発売される予定です。

原著『未来を拓く君たちへ』に興味のある方は、
私の公式ブログ「新しい風」をご覧ください。
http://blog.hiroshitasaka.jp/


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「風の対話」 ブロゴスフィアにおける「言霊」の戦略
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今週は、シリーズ
『プロフェッショナル進化論』の第12回、

ブロゴスフィアにおける「言霊」の戦略

をテーマとして話します。

ウェブ2.0革命の時代には、
無数のブログや個人サイト、
メールマガジンポッドキャストなどが互いに結びつき、
ブロゴスフィア」と呼ばれる目に見えないコミュニティが
生まれ、広がっていきます。

では、どうすれば、このブロゴスフィアにおいて、
自分のメッセージを、多くの人々に読んでもらえるのか。

その答えは、逆説の中にあります。

メッセージを、広げようとしてはならない。
メッセージが、自然に広がっていく戦略を取れ。

なぜなら、もし、そのメッセージが
多忙な人々でも、短時間で読むことができ、
読んだときに深い共感が生まれるものであるならば、
ブロゴスフィアにおいて、それは、
黙っていても、他の誰かに転送され、
創発的に人から人へと広がっていくからです。

では、そうした創発的なメッセージとは、いかなるメッセージか。

短い物語やエピソード、寓話やメタファーです。

すなわち、短い物語やエピソード、寓話やメタファーが
それを読んだ人の心に深い共感を呼ぶとき、
それは、「言霊」(ことだま)となって、
それ自身の生命力によって、自然に、
ブロゴスフィアの世界に広がっていきます。

この第12回では、そのことについて話します。

この番組をお聴きになりたい方は、
下記のサイトをご覧ください。
http://www.hiroshitasaka.jp/taiwa/kaze.php